剣道が教えてくれた“強さ”と“優しさ”


「剣道が教えてくれた“強さ”と“優しさ”」


一年前のある日、息子のKが突然「桜武館で剣道を始めたんだ」と私に話してきました。そのときの私は、本当に驚きました。長い間海外で暮らしてきた彼は、どちらかといえば自由気ままで、自分の好きなことに熱中しても長くは続かない性格でした。新しいことを始めても、しばらくするとすぐに飽きてしまう。

そんな息子が、日本で剣道という厳しい武道を選ぶとは思ってもみませんでした。

最初の頃は、正直なところ「どうせすぐやめてしまうだろう」と思っていました。防具をつけるのも大変ですし、竹刀を振る稽古もきつく、暑い日も寒い日も続けなければならない。Kの性格を知っていた私は、ほんの気まぐれだと思っていました。ところが、そんな私の予想は良い意味で裏切られました。彼は毎回の稽古に真剣に取り組み、少しずつ上達していったのです。

稽古の後、汗びっしょりになって帰ってくる姿を見て、「本当に頑張っているんだな」と感じるようになりました。ときには大学の授業が疲れて「今日はやめようかな」と言う日もありましたが、でも聞いたら竹刀と防具を持って電車二回乗り換えて道場に行った、たとえ遅刻してもちゃんと先生に謝って稽古を始める。その姿勢に、私はいつの間にか応援する気持ちが強くなっていきました。

その気持ちは、ある出来事をきっかけにさらに深まりました。

数年前、私たちが住んでいたカリフォルニアで大きな山火事があり、家が焼けてしまいました。

生活が一変し、家族全員が不安と悲しみに包まれる中で、Kは自分から「家族のそばにいたい」と言ってくれたのです。以前の彼なら、辛い現実から目をそらしていたかもしれません。しかし、そのときの彼は落ち着いて、周りのことをよく見ていました。

私はその姿を見て、剣道を通して彼の心の中に「責任」「思いやり」「強さ」が育っていることを感じました。あの瞬間、武道教育が彼を内面から変えてくれたのだと気づいたのです。

初めて級の審査に合格したときの彼の笑顔は、今でもはっきり覚えています。あのときの嬉しそうな表情を見て、「この子は本気なんだ」と確信しました。

さらに、区民大会で三位という成績を収めたときには、信じられないほどの誇らしさと感動を覚えました。試合の前は緊張で顔がこわばっていましたが、いざ竹刀を構えると真剣な眼差しに変わり、一本一本に心を込めていました。勝っても負けても、彼の中には確実に成長がありました。

そして今日、ついに初段に合格しました。あの日、「剣道を始めた」と言った自由度高すぎのkが、今では礼儀正しく、精神的にも大きく成長した青年になっています。審査の日、彼が一礼して試合場に立つ姿を見た瞬間、胸が熱くなりました。これまでの努力と葛藤、そして支えてくださった先生方や仲間の存在が、すべてその一礼に込められているように感じました。

剣道は、ただ強くなるためのものではなく、人としての心を磨く道です。

礼に始まり礼に終わる

その精神の中で、Kは「感謝」「忍耐」「敬意」を学びました。日本を離れて暮らしながらも、彼がこうして日本の心を自らの中に育てていることが、母として何よりの喜びです。


K、本当に初段合格おめでとう。あの日の約束を胸に、ここまで努力を重ねてきたあなたを、心から誇りに思います。これからも感謝の気持ちを忘れず、強く、優しく成長していってください。

母は、どこにいてもいつまでもあなたの味方です。“You are my pride forever, and I love you very much.”